その3: 天候、民族、文化を知る
**ASEAN地域の多様性を覗いてみよう **
今回は、ASEAN地域の人種と文化についてお話しします。この地域の多様性が面白いことは広く知られていますね。それぞれの国に特徴があり、加盟国間の距離も近いために共通点もあります。まずは、この地域の気候についてお話ししましょう。
1.天候
ASEANに加盟する10カ国は、すべて赤道線の下に位置しています。そのため、この地域の国々は主に熱帯気候です。熱帯気候は一般的に乾季と雨季の2つの季節で構成されています。例外として、ミャンマーやベトナム北部では亜熱帯気候です。
一般的に乾季になると、その地域では数ヶ月の間十分な日照時間を確保することができます。乾季に起こる問題としては、乾季が長引くと干ばつを引き起こす可能性があることです。これは農業にも影響がある上、同地域で定期的な山火事を引き起こす危険性もあります。
一方雨季には、各地で十分な降雨量を確保することができます。植物に栄養を与えるためには雨が必要であるため、雨季は地域の農業の中核をなしていると言えます。雨季の弊害としては、洪水や土砂災害が挙げられます。
ASEANの中でもミャンマーとベトナム北部は亜熱帯気候に属しています。このASEAN地域北部にも、3月~4月は夏、5月~10月は雨季、11月~2月は冬がやってきます。
2.民族
民族は、今回の記事の中で最も多様性に富むテーマです。すべての国がそれぞれ独自で特徴的な民族性を持っています。世界で4番目に人口の多いインドネシアは、広大な面積を持つ列島型の国であるため、300以上の民族が存在しています。ジャワ人はインドネシアの民族の1つであり、ASEAN地域では最大の民族です。ベトナム最大の民族はキン族で、インドネシアのジャワ人に次ぐASEAN地域第2位の民族とされています。タイにはタイ族、カンボジアにはクメール族、ミャンマーにはビルマ族がいます。マレーシアはマレー人、中国人、インド人の3つの民族が多数派を占めています。シンガポール人は大多数が中国系の民族です。インドネシア同様に列島国であるフィリピンも民族的には様々ですが、その多くはタガログ語族です。
3.料理
ASEAN地域の料理には主にコメやスパイス、ハーブ等が使われています。これは年間を通して多種多様な植物が生育する熱帯気候の恩恵を受けているからでしょう。ASEAN諸国ではどのような料理が作られているのか見てみましょう。
a.ミャンマー料理
ミャンマー料理は、場所が近いこともあり、中国やインドの影響を強く受けています。ミャンマーの主な料理は野菜と果物を中心としたものです。ミャンマーの人々が良く食べる有名な野菜はダニンディと呼ばれ、和名はジリンマメと言います。他のASEAN地域ではジェンコルやジェリンという名前でも知られています。ミャンマー料理で使用される最も一般的なスパイスは、コリアンダー、カレーリーフ、ニンニク、ガランガル、ショウガです。
b.フィリピン料理
フィリピンは長い間ヒスパニック系民族による植民地支配下にあったため、料理に関しても少なからずその影響を受けています。他にも中国、アメリカ、その他アジアの国々から影響を受けています。シシグは、豚の頭と鶏のレバーを使ったフィリピン人たちが好きな料理の一つです。フィリピンで使用される最も一般的なスパイスは、ローリエ、ニンニク、ショウガ、パンダン、レモングラスです。
c.インドネシア料理
インドネシアの郷土料理は、ジャワ料理、スンダ料理、ミナン料理等がベースになっています。インドネシア料理は主に、スパイスやハーブを混ぜて作ります。インドネシアの有名料理は、ビーフレンダンです。これは牛肉を何時間も煮込み、スパイスやハーブ、ココナッツオイルを混ぜた料理です。インドネシアで使用される最も一般的なスパイスは、唐辛子、コショウ、ショウガ、ターメリック、クローブです。
d.マレーシア料理とシンガポール料理
マレーシアとシンガポールの料理は、マレー人、中国人、インド人の影響を受けています。この三大民族の影響を受けた郷土料理には、長い歴史があります。これらの国で好まれている料理の1つはナシレマックで、ココナッツオイルで蒸したご飯に卵や肉、野菜などのおかずをトッピングしたものです。マレーシアとシンガポールでよく使われるスパイスは、ターメリック、チリパウダー、クミン、コリアンダー、ブラックペッパーです。
e.タイ料理
タイ料理は世界的に最も有名なASEAN料理です。タイ料理の中で最も有名なのはトムヤムクンで、スパイシーで酸味のある魚介ベースのスープです。タイ料理は他のASEAN地域の料理と比べて、世界中のどこでも容易に専門店を見つけることができるでしょう。タイで使用される最も一般的なスパイスは、シナモン、コリアンダー、ターメリック、クミン、ショウガです。
4.言語
ASEAN地域では、民族グループによって異なる言語を使用しています。そのため、居住する民族の組み合わせによって、多言語国家が構成されています。コミュニケーションをスムーズに進めるためにも、ASEAN各国で使われている言語を見てみましょう。
a.タイ語
タイではタイ語を公用語として使用しています。タイ語は中国を中心に多くの地域からの影響を受けている言語です。ASEAN地域で一般的に行われている言語の慣習と同じように、タイ語には5つの話し方があり、コミュニケーションをとる相手によって使い分けます。
b.インドネシア語
インドネシアには、地域によって日常的に使用される言語が700種類以上あります。そこで民族間の言語の壁を取り払うために、インドネシア語を公用語としています。このインドネシア語は、マレー語、オランダ語、アラビア語、サンスクリット語の影響を多く受けています。そのうちオランダ語は植民地時代の影響によるものです。
c.マレー語
マレー語はASEANの中でも3つの国々で使用されています。マレーシア、シンガポール、ブルネイの三国です。しかし、中国語、サンスクリット語、オランダ語、アラビア語、ポルトガル語など、それぞれの地域で長い間使用されていた他言語の影響により、同じマレー語でもこれらの国々では用法に違いがあります。
d.その他
その他の国ではそれぞれ自国語があります。フィリピンではタガログ語を日常的に使用しており、ミャンマーではビルマ語、ベトナムではベトナム語、ラオスではラオス語、カンボジアではクメール語を使用しています。
~コラム~
古くからASEAN地域の文化には、元来の土着文化と多くの外来文化の影響が混在しています。かつての東南アジアは、世界中の人々、主にインドと中国からの人々の交通の要所となっていました。そこで非常に長い時間をかけて様々な文化が変容し、融合した結果、現在の文化が出来上がったのです。昔からASEAN地域の人々は、外国の影響を寛容に受け入れる傾向があります。そのため、ASEAN内のいくつかの国々では非常に似通った文化や、言語、料理が使われています。
まずはASEAN地域の人々の寛容な性格が表れる行動や、外国からの影響に対する反応をざっくりと見てみましょう。まず初めに、人々のこの寛容な性格は、この地域の社会全体が外国からの影響や人々に対して好意的であることを示しています。次に、ASEAN加盟国の大半が様々な宗教に寛容な社会であることは、その社会をより礼儀正しいものにし、互いに尊敬しあうことに良い影響を与えています。最後に、この地域の言語の多くには敬語の用法があり、特に年長者や偉い人と話す際の敬語など、コミュニケーションをする上で相手を敬う意識が高いことが分かります。
日常的な行動の他に、ビジネスにおいても相手を敬うことは大切なビジネスマナーと言えます。ASEAN地域やアジア全般でのビジネスマナーとして知っておくべきことは、この地域の社会が直接的なコミュニケーションを得意としていないことです。アジア圏の人々は直接的な物言いを避ける傾向があります。彼らが話の本題へ入る前に遠回しな表現を用いがちなのは、相手への敬意を示すためであったり、対立を最小限に抑えようとしたりするためです。よくある例として、「はい(YES)」問題があります。この地域の人々は、どんな質問であってもいいえ(NO)と答えることを極力避けようとします。そのため、質問に対して正当な回答が欲しい時には、その質問が無遠慮すぎないかに留意した上で質問をすると良いでしょう。2つ目のマナーは、敬語を使うことです。会話の上で「先生」「様」などの敬称をつけることを意識して、相手に好意的な印象を持ってもらえるようにしましょう。これらのマナーを意識することで、ビジネス上のつながりが生まれやすくなります。このように関係性を築いていくことがASEAN地域で3番目に重要なビジネスマナーです。この「つながり」があることで、家族や仕事関係などから更なるつながりを築くなど、より深い協力関係のビジネス経験を積むことができます。このような「つながり」は多少の意見の食い違いであれば上手く擦り合わせる際の一助ともなり、互いの関係性をより親密なものにすることもできるでしょう。