その1: 地理情報と政権を知る
** まずこれだけはおさえておきたい、中南米の地理と政治の基本 **
1.地理条件
中南米の地理で一般的に知られているのは、メキシコは米国と国境を接していて、一番大きいのはブラジル、南端はアルゼンチン、チリは細長くて、北米と南米をむすぶ細い首の部分はパナマ、ということくらいでしょうか。
では、地図を見てみましょう。
国の正確な位置や首都などは、個別の国に旅行に行くときのために、取り敢えずおいておきましょう。
それよりも、ビジネスを中南米全体で考えるうえで地形的に覚えておいた方が良いのは、主に以下のポイントになります。
海のある国とない国
南米には、海に面していない国が二つあります。
ボリビアと、パラグアイです。
国際貿易は、ボリビアの場合はチリ北部の港と鉄道輸送で、パラグアイの場合はブラジルやアルゼンチンの港と陸路または河川輸送で運ばれて、行われています。
太平洋と大西洋(カリブ海)両方に出口がある国
これはいうまでもなくパナマ運河があるパナマですが、例えばメキシコやコロンビアは、太平洋側とカリブ側と両方に面しています。つまり海運は、欧州に対してもアジアに対しても、出入口があるということです。
その他の国は、アジアの方が近いか、欧州の方が近いか、どちらかになります。
アジアとの海運は、ベネズエラから右回りに、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ、アルゼンチンの場合は、パナマ運河を通る必要があります。
山がちの国
南米にはアンデス山脈があり、今度はコロンビアから左回りに、エクアドル、ペルー、ボリビア、チリは山がちの国となります。
ブラジルやアルゼンチンのような広い国では、内陸部から港までの輸送がかかりますが、小さな国でも山がちだと、直線距離では近くても高山を登ったり下りたりで、輸送コストや輸送時間が平地よりもかかります。
その他、地理的情報である気候に関しては、農産品や文化にも影響がありますので、のちほど改めてご紹介します。
2.人口規模
次に、人口をみてみましょう。ブラジルとメキシコが多いのは何となく知っているかと思いますが、規模感は以下の通りです。人種に関しては、これものちほど改めて詳しくご紹介します。
市場規模的観点からは、赤枠で囲んだ国くらいに焦点をあてるべきかもしれませんが、例えば下の方のウルグアイやコスタリカなどは政権が安定していて、ビジネスパートナーとしては有力候補となります。
典拠:国連経済社会局UNDESA
3.大統領を知る
地理情報だけだと、何となくその国の顔が見えないのではないでしょうか。そこで今回はまず、人口が多い上位7ヵ国の、現在の大統領を、簡単にご紹介します。
ブラジル
ジャイール・ボルソナロ
65歳、3度目の再婚、子供4人
2019年1月就任、任期4年
ブラジルのトランプと呼ばれる極右。経済活動維持を優先してコロナ対策をせず、マスクを着用しないで遊説していたことが批判されたが、7月初めに自身のコロナ検査で、陽性が発覚。
メキシコ
アンドレス・ロペス
66歳、再婚、子供4人
2018年1月就任、任期6年
2006年、2012年の大統領選にも出馬していたが落選しており、今回3度目の正直で当選。汚職撲滅を掲げ、前政権の新飛行場建設プロジェクトをキャンセルしたり、大統領専用機を売りに出すなどしている。
コロンビア
イバン・ドゥケ
44歳、既婚、子供3人
2018年8月就任、任期4年
前々ウリベ大統領率いる党派のサントス前大統領が、左翼ゲリラと和平交渉を締結してウリベ前大統領と険悪になったが、ドゥケ大統領は忠実にウリベ路線を守っている。
アルゼンチン
アルベルト・フェルナンデス
61歳、15年前に離婚、子供1人
2019年12月就任、任期4年
副大統領は、2期務めた前々大統領のフェルナンデス女史で、直前の右派マクリ大統領から政権を奪回。ロックとサッカーの大ファン。
ペルー
マルティン・ビスカラ
57歳、既婚、子供4人
2018年3月就任、2021年7月に任期終了。
前政権で副大統領を務めていたが、前大統領の汚職疑惑による辞任で大統領に昇格し、前政権のもともとの任期終了となる2021年7月までが任期となる。
ベネズエラ
ニコラス・マドゥーロ
57歳、離婚、子供1人
2013年4月就任
2013年にカリスマ的に社会主義独裁政権を率いていたチャベス大統領が癌で死亡し、副大統領から昇格。チャベス大統領路線を忠実に引き継ぐも、経済破綻で国は破滅状態。若い頃は野球をしており、ドラムを叩く。
チリ
セバスチャン・ピニェラ
70歳、既婚、子供4人
2018年3月就任、任期4年
2010年にバチェレ女史前大統領から政権を引き継いだが、2014年に同女史に政権が代わり、2018年に再度政権をとる。企業家でもあり、富裕層。
~コラム~
中南米の政治的歴史と右派・左派
中南米の近代の歴史を、分かりやすいように、かなり大雑把にまとめます。
1959年のキューバ革命で、カストロ政権が反米の社会主義国となってから、ラテンアメリカでは、ラ米の坂本龍馬と言われるチェ・ゲバラ(アルゼンチン人)が南米各地を回って社会主義を広め、米国はなんとかそれを抑え込もうとしました。そして1970年代には、米国の援助で軍事独裁政権が相次いで成立し、社会主義者への弾圧が始まります。その弾圧に対する民衆の反発で、80年代からは民政移管が広まりますが、ここから生まれた右派と左派は、現在も殆どの国でほぼ対等の勢力を保っているといってよく、定期的に右派政権と左派政権が入れ替わる傾向があります。
尚一般的に、右派左派というのは中南米では、イデオロギーというよりも、富裕層は右派、中産階級から低所得層は左派といってよいでしょう。右派が政権を取ると外国投資が増え、ポピュリズムの左派が政権をとると、外国企業を排除する傾向もあります。
上の大統領紹介でも記載しましたが、現時点の右派政権はブラジル、チリ、コロンビア、左派政権はベネズエラ、アルゼンチン、メキシコ、ペルーとなります。